リスク分散複合経営

「今ぐらいの価格が適正だと思いますよ」

今から7年ほど前、BSEや産地表示疑惑に揺れた畜産業界にあって、他の畜産業者が目をむくようなことを言っている農家があった。

山口県にある『ふるさと牧場』の山本喜行さんだ。(ふるさと牧場と言っても、和牛商法で問題となったあの牧場とは無関係です)

ふるさと牧場は親牛に種付けをして仔牛をとる繁殖農家だ。仔牛の生産コストは通常30万円くらいかかると言われている中、10万円以下のコストで生産性を上げているふるさと牧場ならではの言葉だ。

なぜ、それほどにコスト削減ができているのか? それを他の田舎ビジネスに活用できないかという話である。

山本さんは谷間の奥の急傾斜地で林業、水田、畜産をされている。それも1人である。奥さんは会社員として毎日として働きに行っている。

つまり、牛と山と稲の世話を1人でやっている。あり得ねぇ〜のである。しかも、朝は8時頃起きるというのである。ますますあり得ねぇ〜のである。

ふるさと牧場の牛舎は棚田の脇にあり裏が解放されている。そのため牛たちは好きに出入りすることができ、棚田をぶらついたり山に登ったりして過ごすそうだ。そして夕方には勝手に牛舎に戻ってくるという。

日中は牛舎にいないので牛舎はそんなに汚れない。朝晩のえさと、出産前後の親仔牛の世話があるくらいである。

棚田では米の収穫がおわると牧草の種を蒔き、伸びてくると牛を入れる。牛たちは石垣の間の雑草までも手入れしてくれる。

裏山では強間伐を実施しているため木と木の間が広く空いており、牛たちが行き来できるようになっている。牛たちは林床の草を食べるが、唯一『シキミ』は食べない。シキミの実には毒があるため牛は食べないのだ。

ところが、このシキミの枝葉は仏前に供えるため、そちらの方面の需要はバカにならない。結構儲かるのである。

山本さんはもともと農業や林業をしていたわけではなく、もともとは農家の息子だが、外に出て警官だったりレストラン経営をしていたりしたのだが、40代半ばの時に田舎に戻り、跡を継ぐことにした。

林業で収入を得ながら廃用牛を買った。仔牛を産まなくなった牛はもちろん捨て値で買えた。

林業で最も経費のかかる下草刈りを、捨て値で買った牛にやらせようという発想である。アイガモ農法にヒントを得たらしいのだが、これが的中した。

牛を放したことは下草を食べるだけでなく、踏圧によりさらに下草が生えなくなるらしい。

さらにである。狭い牛舎で不妊になった親牛の毛艶が良くなり、ついには発情したというのだ。そして、種付けをすると妊娠したという。これを機に繁殖農家となった。

ふるさと牧場では、棚田、山、牛が相互に絡み合っており、そこに独特のサイクルがある。実にムダのないサイクルなのだ。

※詳しいことは田中淳夫氏の『田舎で起業!』をご覧ください。

で、この話にはさらに、もっとわくわくするおまけが付いている。

牛が手入れをしている山は季節の花々が見事なのだ、牛は黙々と下草を食べ、人の目を喜ばす花は食べない。

この美しい山に市民が訪れ、学校などが環境教育の場として利用し始め、全国各地からの視察や大学の研究者もやってくるようになったというのだ。

林道をトレッキングコースとして整備し。、山を市民に開放した。

2000年には『こぶしの里牧場交遊会』か結成され、全国から学生が研修にはいるようになり、ついには宿泊施設までできてしまった。

このグループは単にこぶしの里に遊びや研究に来るだけではなく、牛の世話や稲刈り、間伐、椎茸栽培などの作業を手伝っている。山本さんひとりで手の 足りない部分を補いながら、彼らはそこを研究フィールドとして楽しみながら活用している。(この学生力はこれからの田舎の活性化にとって非常に重要なキー ワードになると私は思っている。)

ふるさと牧場はたった3頭の廃用牛から、農業、林業、畜産業、さらに研修や教育の複合経営となったのである。

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